マレーシアへの訪問は昨年の夏に続いて2度目です。
昨年は牡蠣を扱うレストランへ三陸牡蠣の提案を行っただけで、マレーシアで牡蠣のマーケットはどんな状況なのかよく解りませんでした。
三陸牡蠣の海外販路開拓のために、また自社の牡蠣ビジネスを成長させるために、今後、どのように東南アジアへの事業プランを考えれば良いのか、事前調査ということで、再度、マレーシアのクアラルンプールに来ました。
やはりその場合、最初に確認すべきことは、牡蠣が売られているシーンを直接見ることです。「売っている人」、「買う人」、「食べる人」の顔を直接見ることが大事だと思っています。
そこから、その国や地域での牡蠣のニーズを計ります。さらに、他のASEAN諸国と比較しながら、将来の展開を考えていきます。
つまり、マーケットのないところからマーケットを作る方法を考えるよりも、現時点のマーケットの規模、特徴を知り、それに入り込む方策を考えながら、将来の新たなマーケット創造を探っていくという考えです。
僕が最初に行ったのは、インビ・マーケットでした。それなりの規模の大きさです。繁華街のあるブキッ・ビンタンから歩いて行けるくらいのところで、まさにローカル・マーケットです。地元の人が地元の人のために用意するマーケット。こうしたローカルマーケットこそ、地元の食文化を知る絶好の場所と思っています。
牡蠣でいえば、写真のとおり、干した牡蠣だけがありました。殻付き牡蠣はなく、剥き身生牡蠣もありません。これで地元の人は、殻付き牡蠣をあまり食べない、いや剥き身生牡蠣もあまり必要としてないことが解ります。
その後、知り合いの日本人からご協力いただき、牡蠣があるところを幾つかご紹介いただきました。まずは「Jasons」というショッピングモールの食品売り場に行きました。
ここでは、水槽で畜養している殻付き牡蠣がありました。
確認するとオーストラリア産の牡蠣だけで、地元マレーシアの牡蠣は取り扱っていないとのことでした。
次にまわったのは、高級マンションが建ち並ぶ住宅街の一角にあるショッピングモール「publika」です。
ここは、結構有名なところのようで、オーストラリア産の牡蠣とフランス産の牡蠣がありました。ダースで売っていますが、1個あたり200円から300円。エア便で送っている割に結構安く入っていますね。
このモールへの顧客層そのものが、地元というよりも海外から来て近くのマンションに住んでいる方々という感じです。
従って、地元の人が殻付き牡蠣を好きで食べているというよりも、海外からの赴任者やその家族が食べるために用意されていると言えます。
そして、この店は不思議で、食品売り場の中に一つの囲われたブースをつくっていて、一部にはお客が座るカウンターがあり、剥いてくれる牡蠣をその場で食べることができるのです。
通常のオイスターバーなら、海外産の牡蠣は、500円以上しますが、ここで一般小売りしている金額で剥いてくれました。
私はオーストラリア産の牡蠣をいただきました。
鮮度は悪くないです。畜養していないとしたら、オーストラリアから届いてから少ししか経っていないですね。
次に行ったのは、KLCCそばの「OZEKI」。ここではアメリカ産の牡蠣がありました。日本産はありません。
このアメリカ産の牡蠣よりも、日中に行った、スーパー内のオイスターバーで食したオーストラリア産のほうが牡蠣の味が濃かったように思います。
他にも、牡蠣を出す店はそれなりにありますが、どこも、オーストラリア産やニュージーランド産、アメリカ産、フランス産のいずれかですね。
「マレーシアの地元の牡蠣はないか」と確認すると、「取り扱っていない」とか、「小さくて出せるようなものではない」とかいう返事。
マレーシア国内の牡蠣産業はそれほど大きくないことが解ります。もっとも、ベトナムでもここ数年で勃興し、急にローカル市場に殻付きが流通しているくらいなので、あくまで現時点は、まだマレーシア国内産の牡蠣はほとんどクアラルンプールで流通していないということですね。
今回の視察では、牡蠣養殖場に行くことはできなかったのですが、マレーシア国内でも牡蠣養殖をしているはずなので、次回は、生産者がどこに販売しているのか確認したいと思います。
さて、三陸牡蠣を、このマレーシアで展開する方策ですが、やはり飲食店への卸しということが現実的だと感じました。
タイなどと違い、首都の人口が少ない割に、海外産の殻付き牡蠣を食することのできる店が多いと感じたからです(バンコク 828万人、クアラルンプール162万人 2010年度)。
しかし、気になるのは地元の方が牡蠣をそれほど食さないことです。確かに現時点ではある程度の飲食店は牡蠣を扱っていますが、どうもターゲットがマレーシア人ではなく、海外の方が多いように見えます。
つまり、現時点のマレーシアの牡蠣マーケットに対して、三陸産の牡蠣が入り込めるとしたら、地元産の安い牡蠣が流通しないことから、競合は同じ海外産の輸入している牡蠣となるため、同じ土俵に立てるということ。
一方では、地元の方々に牡蠣のニーズの広がりがないことから、マーケットが急速に拡大する可能性がないため、他の海外産の牡蠣を押しのけた分しか販売を伸ばせないということが想像できます。
手順としては、他の海外産の牡蠣を少しずつ押しのけ、ブランディングした三陸産牡蠣を入れ込みつつ、新たな牡蠣の需要をつくっていくということになるのだろうと思います。
ここ2週間ほど、ベトナムを拠点に、カンボジア、タイ、マレーシアと見てきましたが、やはり直接見なければ、マーケットは解らないですね。
地元の殻付き牡蠣が主として流通し、殻付き生牡蠣の需要が増えているベトナム。
地元の殻付き牡蠣がベトナムの後を追うように少しずつ流通するも、価格の高い海外産の牡蠣の入る隙のないカンボジア。
地元の剥き身牡蠣が流通し、料理の材料となり、殻付き牡蠣があまり流通していないタイ。
地元の殻付き牡蠣がほとんど流通せず、海外産の殻付き生牡蠣の需要のあるマレーシア。
しかし、いずれにしても、刻々と変わるASEANの新興国は、目を離した隙に、マーケットが変化してそうなので、常に変化に合わせながら、展開を図ることが大事だと思いました。
またイスラム教を国教とするマレーシアで事業展開を進めるには、「ハラル」と呼ばれるイスラム法上合法な食品が主に流通し、そこで豚を食用にすることが禁じられているなどから、他のイスラム以外の国と違い、食文化が大きく異なっていることも背景として考慮していかなければならないと思っています。