三陸牡蠣の業界は、生産者一人あたりの牡蠣の生産高はだいぶ回復したものの、そもそも牡蠣生産者数が半数近く激減したため、全体の生産高は震災前の半分もいかない状況です。
震災前の宮城県の牡蠣生産量(むき身換算)は、4,000トン以上でしたが、平成26年度でまだ2,000トンにも到達していません。
震災直後からの推移は次のとおりです。
宮城県 牡蠣生産高(むき身換算)平成27年12月現在
平成23年度:生産量 319㌧ 生産金額 3億6,800万円
平成24年度:生産量 597㌧ 生産金額 8億3,800万円
平成25年度:生産量 1,155㌧ 生産金額11億7,400万円
平成26年度:生産量 1,596㌧ 生産金額25億8,500万円
(出典:宮城県農林水産部)
このように全体の生産高が半分にも達していないので、まだまだ復旧できていないと見るのか、あるいは、一人あたりの生産量が元に戻りつつあるので、だいぶ復旧したと見るのか、それぞれの立場によって異なるかも知れません。
当社アイリンクが関わっている生産者に限ってみれば、ほぼ震災前の生産量に戻っている方々も多いし、震災前にやっていなかったワカメなどの他の魚種をやるようになったために総合的な収入が良くなった方もいます。しかし一方では、漁協の施設が復旧していないために、いまだにきちんと牡蠣養殖ができない方もいます。
特に岩手の牡蠣は、殻付き牡蠣の出荷シェアが全国的にも非常に高いところでしたが、震災のため大きく激減し、いまだに殻付き牡蠣の出荷は震災前には到底及んでいないと感じています。逆に宮城のほうが、震災前にほとんどなかった殻付き牡蠣の出荷が現在大幅に増えています。
このような背景に、僕が三陸牡蠣業界において、引き続き、協力したいこと、力を入れたいと考えているのは次の3点です。
1)殻付き牡蠣養殖・販売へ大きくシフトする
むき身の価格は乱高下しています。高い価格と低い価格は、約3倍以上の開きがあります。これでは生産者の生活は安定しません。一昨年は広島の不作によって、宮城のむき身牡蠣はシーズン中、ずっと高値で推移しました。しかし今シーズンは落ち着いてきましたし、価格が下がりすぎて生産調整があるほどです。
一方、殻付き牡蠣は、シーズンを通して、ほぼ同一価格で出荷可能です。どのくらい生産すればどのくらいの収入が得られるか計算できます。僕は震災後からずっと言ってきている通り、三陸牡蠣の真の復興には、殻付き牡蠣養殖・販売へ大きくシフトしたほうが良いと考えています。(参考→「日本ではじまる牡蠣養殖革命」)
殻付き牡蠣主体の生産販売で、安定した収入、高い収入を得られ、それらによって、就業者が増え、高齢化、生産者減少に歯止めがかかることで、自国で自給できる牡蠣生産高を維持成長できるものと考えています。
2)養殖方法を明確に分けて取り組む
震災後、首都圏ではオイスターブームが勃興し、オイスターバーが多くなりました。またここ2年ほど、カキ小屋ブームが勃興し、これまた全国にカキ小屋が増えてきました。
オイスターバーや料亭などで食される殻の形の良いプレミアムな殻付き牡蠣と、当社のかき小屋仙台港でやっているような焼き牡蠣、蒸し牡蠣で食する牡蠣とは、養殖にかかる手間も異なるし、当然単価も異なります。
プレミアム牡蠣をもっと効率的に作るにはどうしたらよいか、もっともっと追求する必要があると感じていますし、プレミアム牡蠣をカキ小屋で使用することは勿体ないと感じます。
当社として、プレミアム牡蠣の生産効率を高める道具を提供するだけではなく、プレミアム牡蠣を海外へ出荷することを、これからも取り組んでいきたいと思っています。
3)牡蠣の需要を刺激し創造する
これが3つの中で一番重要だと考えていますが、1年の間にほとんどの商品を入れ替えていくコンビニエンスストアを経営していた僕自身の経験から考えると、牡蠣業界は、あまりにも需要を刺激しない業界だと感じています。
5年前の今日、2011年3月11日によって、三陸牡蠣がほぼ壊滅状況になりました。日本中の人々が悲しみ、復旧・復興を支援され見守ってくださいました。震災から2週間後に当社が始めた「三陸牡蠣復興支援プロジェクト」で2万4千人以上の方からお申し込みいただいただけではなく、他の牡蠣関係のクラウドファンディングでも、多くの方々が三陸牡蠣の復旧へご協力してくださいました。また合わせて、沢山のメディアで「牡蠣」が取り上げられました。
そうしたことによって、大きな不幸の中で、幸運にも「牡蠣」に注目される方が増えたのは事実です。その後のオイスターバー、カキ小屋の勃興の要因は、東日本大震災がキッカケだと思っています。
しかし、オイスターバーも一段落し、カキ小屋も一段落した感があります。それはなぜかといえば、需要に対する”刺激”の賞味期限が切れたからです。つまり震災によって需要が刺激を受けた結果、オイスターバーもカキ小屋も伸びたのであって、何となく牡蠣を好きになった人が増えたからではないのです。
従って、そうした自然災害で、同情や支援をあてにせず、自力で、需要を刺激し創造し続けることが、僕は重要だと考えています。それを念頭にこれからも取り組んでいきたいと思っています。